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FK

About "Lo-fi" scene, episode with Nujabes, and new release.
(日本語 / Japanese Translation)

February 13,2021

Lo-fi界隈ではとかく名前の挙がる「Nujabes」がオーナーであったレコード・セレクトショップ「tribe」でマネージャーを務め、Nujabesの音楽レーベル「Hydeout Production」、サブレーベルであるショップ発の「tribe」より作品をリリースしているFK。

そのFKと長きに渡り親交を持ち、又、Nujabesの友人でもあったインタビュアー(Mental Position)が、DJ、ビートメーカーとして活動を続ける彼の近況についてインタビューをおこなった。

2007年に7inchでリリースされた「Context to the Water」「Lotus Garden」のリマスター・デジタル版について、そして、Nujabesと気心の知れた関係であり、Nujabesの音の「核心」を知る彼に、昨今の「Lo-fi」ミュージックシーンなどを主なトピックとして話をうかがう。

MP – 「Lo-fi」や「Lo-fi Hip Hop」と言われるような音楽は、我々が知っている1990年代のHip Hopにおける制作スタイルや、音の雰囲気、音質的なところが系譜としてあるわけですが、今のLo-fiミュージックについては、どのように思っていますか?

FK – 正直なところ、僕自身は「Lo-fi Hip Hop」というムーブメントをそこまで意識していませんでした。徐々に巷で話題になることが多くなってきたので、気になったアーティストの作品をチェックする程度ですね。なんとなく「ああ、こういう感じの音を指すんだろうな」と認識するレベルです。

元々、Hip Hopという音楽は、ニューヨークで生まれた、ストリートカルチャーのエネルギー溢れる音楽でした。ゲットーに住むお金の無い人々が、少しでも日常生活を楽しもうと創意工夫していく中、Hip Hopカルチャーは培われました。その原動力は「いかに荒んだ日常を意味あるものに変えていくか」というところにあったと思います。例えば、レコードプレイヤーを楽器に見立ててスクラッチしたり、誰かの曲をサンプリングして新たな作品に作り替えたりといった行為です。サンプリングと言っても、「ゴミ」同然に放り投げられていたレコードを使って新たな作品を作ると言ったものでした。ハングリー精神が生み出した錬金術のような、ある意味ピュアなエネルギーというか、「カッコよければセオリーは不要、どんなやり方だって良い」という気持ちが核心にあると思うんです。

逆に今の時代は、僕たちが熱心にHip Hopを追いかけていた時の環境とまるで違います。ネタに使われるようなレコードも当時では考えられないほど高騰していますし、インターネットがあるので情報が伝わる速度や方法も異なります。それに、曲を作るセオリーがかなり整っているので、手順を踏めばそれなりの曲が出来てしまうこともあり、面白味が少なくなったように思います。とは言え、「最近はYouTubeからサンプリングする」なんて話を聞いてビックリしていますけど(笑)、「何でもアリ」な方が、実は「Hip Hop的」なのかなとも思ったりもしますね。

話が逸れてしまいましたが、いわゆる「Lo-fi」ミュージックと言うのは、90年代のHip Hopのようにロービットレートで音が荒いという特徴がありながら、完全に今の世代の価値観で上書きされている「似て非なるもの」だなとも思ったりします。

MP – サンプリングに関しては「お金が無い」というところから出てきた発想ですが、制作機材については、僕らの時代(1990年代)、価格や普及という点で敷居が非常に高かったです。SP-1200なんて簡単に買える値段じゃなかったですし、AKAIのサンプラーにしても、どこで売っているかわからない人の方が多かったんじゃないでしょうか。

FK – そうですね。しかし、精神的な面について言えば、インターネットからネタをダウンロードしてサンプリングしている若い人たちのマインドと、僕らが昔ワクワクしながらレコードからサンプリングしていた頃のマインドは非常に近い気がします。

現在は「レコードからのサンプリング」という行為は少し高尚な行為に捉えられていて、有名なネタものレコードも手軽に買える値段では無くなってしまいましたが、誰にも知られていない二束三文のレコードに新たな命を吹き込むという美学は、今でも素晴らしいと思っています。tribeという店では、Nujabesと共に「未知なるネタを発掘し続ける」というコンセプトを掲げ、商業的なリスクを覚悟の上、レコードを仕入れ、販売していました。そうしたtribeでの経験もあり、インターネット上の音楽を手当たり次第サンプリングするという行為には違和感を感じる反面、貪欲に素材を集めてアウトプットする今の世代のマインドは、ネタを探すためにレコードを探していた自分達の世代のマインドと根本的には同じだと思っています。

MP – 現在はサンプリングや制作の手法も様々ですが、Lo-fi Hip Hopと呼ばれる音楽には、一つのフォーマットみたいなものがあります。例えば、ROLANDのSP-404もその一つです。そのような流れの中で、AKAIのMPCシリーズやNative InstrumentsのMaschine、あるいは、Ableton LiveのようなDAWソフトが、Lo-fiミュージックの音をより意識するようになりました。Ski BeatsのようなベテランHip Hopプロデューサーが、InstagramでLo-fiなアマチュアビートメーカーをフィーチャーしていたり、投稿に「#lofi」のようなハッシュタグを付けたりと、ミュージシャンのLo-fiへの意識は次第に強まっています。そういう意味でも、現在は「Lo-fi」がすっかりビックカテゴリー化して、一つのジャンルとして成り立っているのかなと思います。ただ、有象無象のビートメーカーを眺めていると、きちんと音を作り込んでいる人もいれば、単にLo-fi Pack的なものをループさせて、SP-404でフィルターしているだけじゃないかと思える人もいて、「Lo-fi」は、良い意味でも悪い意味でも自由で活発なシーンだと感じます。

FK – 「Lo-Fi」シーンの評価については、それほどシーンを意識していないので意見することは難しいですが、あくまでも表層的なカテゴライズだと思います。

曲の制作方法に関しては、自分がビートを作り始めた90年代初頭と比べると環境がまるで違いますが、今の状況が「邪道」とは思いませんし、共感できる部分はどんどん吸収していきたいと思っています。

最近はサウンドパックやSpliceのような音ネタサブスクリプションサービスが一般的になりました。Spliceみたいなものを使っていて面白いのが、誰かの曲を聞いた時に元ネタがすぐにわかったり、ネタが被っているのがごく当たり前になっているということです。

それから、今時のLo-fi Hip Hopを聴いていると、「レコードっぽい音だけど、サンプリングでは出せない音」と思える曲が多くなった気がします。レコード特有のチリノイズも明らかに後から添加されているものが多いですしね(笑)。でも、そこには「こうしたほうが絶対カッコいいでしょ!」という、ピュアな衝動が垣間見えたりして、それはそれで良いと思いますし、ある意味、それも「時代の音」なんだと思います。

MP – ただ、Lo-fi Hip Hop的な音も飽和してきいて、上物は今時のLo-fiっぽい音でも、ビートだけ昔っぽい感じの音、といった曲を聞くと、逆に新鮮に感じます。

FK – 昔のHip Hopの感覚が染み付いてしまったが故に、僕ならば「そのまま使うのは恥ずかしい」と思うようなネタでも、堂々とワンループで使われているのを時々耳にしますね。でも、不思議なことに、自分には無い感覚ということもあって逆に新鮮に感じます。例えば、かなり定番のドラムブレイクを使っていたとしても、世代が違えば、どこかしら解釈が変わります。「これをこう使うか!」と思いながら、非常に興味深く聴いています。僕がそういう定番ネタでビート組むと、無駄に90年代のテイストが出過ぎてしまって、違う感じになってしまうんですけどね(笑)。

MP – 最近は、Maschineのようなツールも、サンプルパックを買ってもらうみたいなところがありますから、音ネタに関してはある程度被っていても、そこから工夫して作るみたいなのが、今の制作スタイルなのかもしれないですね。

FK – 制作スタイルもだいぶ変わりましたが、音楽の聴き方や探し方もだいぶ変わりました。例えば、Spotifyなんかはプロデューサーのクレジットが細かく表示されないことがほとんどなので、昔みたいにレコードやCDのクレジットを見て「プロデューサー買い」するといったことが困難になったと思います。音楽を探すメソッドが「プレイリスト」に集約され過ぎてしまっている。例えば、DJ Premierプロデュースの曲が聴きたいなと思って「Premier」で検索しても、全然(自分が探したいと思っている曲が)検索結果に出てこなかったり。

MP – ジャケット背面に小さくプリントされているクレジットからプロデューサーを見つけて、その名前から新しい曲を探す、と言ったこともできなくなりましたね。

FK – 12inchという文化が無くなったのも大きいです。昔の12inchシングルに入っていたリミックスなんかは(デジタルだと)だいぶ聴けなくなってしまいました。Pete RockのLot’s of Lovin’はリミックスの方が断然好きなのですが、久々にちょっと聴きたいなと思ってSpotifyなんかで探しても出てこないんですよ。

MP – その割にアカペラがあったりするんですけどね(笑)

FK – サブスクリプションサービスでアカペラなんて「どうしろと?」っていう話ですけどね(笑)。ダウンロードして使える場合は良いですけど、(DRMがかかっていたり)気軽に使うのは難しいですよね。とは言え、そういうことも含めて、音楽をやろうとしている人はたくましいですから、本当に取り込みたい音があればどんな制約があってもなんとか工夫してやりくりするのでしょうけど。

MP – 2000年代以降は、特にクラブミュージックやダンスミュージックを中心に音楽の「ジャンル」というものが薄れていきました。逆に「Lo-fi」という音楽はここ数年で一つの「ジャンル」として成立していきましたが、この流れやムーブメントについてはどう思いますか?

FK – 僕にとって「Lo-fi」シーンは、アマチュア音楽ファンなどの間でインターネットを中心に育ってきたものという印象が強くて、以前の音楽シーンのように、コンセプチュアルなアルバムとしてまとめたり、それをフィジカルなレコードにしたりといった感覚は希薄になったと感じます。もっとユルい感じですね。あとは、そのジャンルの中の「ボス的」なアイコンも昔ほど必要とされてないように感じます。ある一定のクオリティのアーティストが分厚い地層のように大量に存在している。でもそういう層の中で生まれる連帯性を共有している感覚が心地よいのだろうなと思ったりもします。Lo-fiならば、ラスボス?が「Nujabes」なのかもしれないですが。それとまともに横並びに語れる存在ってなかなかいないのでないかと思います。

MP – Lo-fiが話題になり出した頃、Lo-fiのGod Fatherが「Nujabes」と「J Dilla」と言われ出したのには個人的には少し違和感がありました。ただ、Lo-fi世代の人たちにとってはHip Hopもハイファイなサウンドだったと思いますし、Nujabesのサウンドの雰囲気や、J Dilla末期のアルバムの感じからは、そう捉えられるのもわからなくはありません。とは言え、音楽的なことよりも同時期に逝去したアーティストというのが神格化を煽った気はします。

FK – 今、J Dillaを崇拝している世代がイメージする音の感じって、リアルタイムで初期から追いかけていた僕らの世代と少しイメージが異なる気がしますね。最近の世代だとクオンタイズをかけていないような“モタった”ビートがJ Dillaっぽいという人が多いですが、Ummahの頃なんて完全にかっちりしたビートでしたし、J Dillaの曲ってそんなにビートが揺れてたかな?って仲間ともよく話します。結局はLo-fiシーンに影響を与えているのは、彼がLAに移住した後の「The Donuts」のような、逝去する直前の晩年の時期の音ですよね。「Jay Love Japan」とかあの時期。ただ、それを聞いても、そこまでLo-fi Hip Hopのようなあそこまでヨレたビートのイメージではない気がするんですけどね。まあ、そこがフォロワーによってアップデートされた部分なのだろうなと肯定的に捉えてますが。

MP – 僕も「The Donuts」を聞き直してみたのですが、敢えて「Lo-fi的」な点を挙げるならば、ビートの尺が短かったり、シンプルなサンプルループのインストもの、というところぐらいでしたね。あとはSP-303を使って制作されたという点でしょうか。

FK – もちろん「The Donuts」は名作だとは思いますけど、過去のJ Dillaの作品と比較すれば全く違ったベクトルで評価されている気はします。彼が死の淵で闘いながら作ったという気迫が漲ってますし、あのアルバムでしか味わえない緊張感、エネルギーそしてブラックネスが渦巻いている感じは本当にすごいと思いますが、逆に彼がまだまだ健康で作品を生み続けたらどうだっただろう?なんて思ったりはします。

MP – Lo-fiという観点で言えば、MF Doomの方が、よっぽどLo-fiな音を作っていた気がしますし、彼の方がLo-fiカルチャーに近い気がします。残念なことに、MF Doomも昨年他界してしまいましたが。

FK – 僕がまだtribeにいた頃、お店に来る人の中にJ Dillaと実際に会って話した方が結構いて、その際の逸話を色々と聞かせてもらったのですが、僕が想像していたイメージとはかなり違いました。インタビューでも「Ultimate Breaks&Beatsというコンピレーションは知らない」と言っていたり(笑)。でも、これはJ Dillaに限った話ではありませんが、とてもピュアな性格で、音に対して純粋なアーティストだったのだと思います。

Nujabesについては、Lo-fi Hip Hopというシーンにとっての「一つの答え」である気がします。Lo-fi界隈でNujabesが神格化されているのは、作風・音質のようなところだけではなく、影響を受けた新しい世代が、彼らなりの観点でNujabesのアーティスト性や音楽を新しいムーブメントへと昇華させているからだと感じます。Nujabes本人もムーブメントを起こすというより、音楽そのものへの執着心と愛情が桁違いに強かったので、まずはそこの部分が人々の心を掴んだ要素なのだと思います。今後生まれてくる音楽も、そうしたクリエイティブなマインドの核心部分は変わらないでしょうし、今を生きる人達で試行錯誤しながら表現していけばいいんじゃないかと思います。

以前、僕よりもずっと若い世代のビートメーカー達と話した時に、彼らから「Lo-fi Hip Hopって(Nujabesの音楽とは)似て非なるもの」「そもそもシーンの発生からして違う」と言うコメントを聞いて、なるほどと思いました。Lo-fiミュージックと言えば、Vapor Waveの延長線上でアニメのワンシーンをあしらった動画を作ったりといった印象が強いですからね。そのような流れの中、アニメ「Samurai Champloo」のサウンドトラックによって、海外のサブカルチャー層に「Nujabes」の名が知れ渡ったことが、Lo-fiミュージックへの大きな影響となったのだ思います。

MP – Lo-fiカルチャーの人たちは、どちらかというと、それまでのマッチョなHip Hop的な人種というよりも、文化系のヲタク気質な人が多いですよね。

FK – その点については、Kanye Westの存在も大きいと思っています。例えば、自身の曲でAutoTuneを大胆に使うなど、音楽の潮流に強い影響を与えたのは彼の功績です。又、それまで古典的なサンプリング中心だった彼の音楽は、突然変異したかのように、サブカルチャーやポップカルチャーを飲み込み進化していきました。Kanye Westは元々ヲタク気質で内向的な人柄のようですが、生前のNujabesにも同じような性格があると感じていました。内向的で粘着気質なアーティストが、自らの世界を一気にスパークさせて作品を生み出す際のオーラは、強い独特の輝きを放ちます。Lo-fiムーブメントがそうであったように、現代社会における人々の関心は、そうしたエネルギーに集まってくるのではないでしょうか。僕自身も、そういうアーティストの引力に引きつけられやすい性格ですが…(笑)

MP – 最近では、コロナ禍での外出自粛の影響もあって、ヲタク気質な人が活躍する機会は強まっていると思います。

FK – 「人気者」のイメージも、一昔前までとは逆転しているように感じます。昔はヲタク気質な人と言えば「教室の片隅で目立たない存在」というイメージでしたが、今では完全にマジョリティーな立場に変わってしまいました。かつて、Hip Hopのような音楽は体育会系なノリが主流でしたが、NujabesやKanye West、Neptunes等が登場したあたりからだいぶ風向きが変わってきたように思います。それぞれ毛色の違うアーティストですが、内面の部分では「似ている」というのが僕の感想です。

MP – Nujabesのこだわりは兎に角すごかったですよね。僕も彼とは随分話しましたが、自分が疑問に思ったことについては、とことんはっきりさせたいタイプでしたし、会話をしていて、ふと適当な返事をすると、「それってどういうこと?」と理解できるまで聞かれたことがよくありました(笑)。あの性格・気質だったからこそ、いい音楽が生まれたのだとは思いますが。

FK – こだわりすぎて本人もよく分からなくなっている、ということも多々ありました(笑)。でも、こだわり抜いた末に出てくる作品というのは、強烈なオーラを放っています。結果、彼の音楽は人々の心に刻まれ、大きな評価・功績を残しています。こだわりと同時に、本当にストイックな人でした。

Nujabesについて、僕が強く記憶に残っているのは、ドラムなどの質感の話をしていた時のエピソードです。彼は「僕の曲の質感は決して綺麗ではない。時には歪んでるように捉えられているかもしれない。でもだからこそ、これが僕の音でもあるんだよね」「今の音楽シーンは玉石混交、入り乱れていて、みんなある程度、綺麗で整っているかもしれないけど、そういった平均化され過ぎて、セオリー通りに作ったものって、逆に目立たず埋もれてしまうんだよね」「だから僕は自分の音の質感を常に心がけてる。膨大な音楽の中でも、僕の音が好きな人たちが、あっ!Nujabesの音だ、ってすぐに気がついてくれるようにね」と、僕に話してくれました。その時の彼の姿は、今でもよく思い出しますし、彼が言っていたことは、現在でも必要な考え方だと思います。

MP – どんなジャンルでも何か良い意味で違和感を感じる方が、人の目や耳に留まりますよね。

FK – 違和感という部分に関しては、Nujabesが「全然違うより、ちょっと違う方が良い」と言っていたのも、なるほどと思いますね。全然違ってしまうと理解されるのは難しいですが、ちょっと違うと人の耳に引っ掛かりやすくなります。

MP – 変わった人ではあったけれど、努力肌な人でしたよね。彼はLo-fiの中で「God father」的に扱われているところがありますが、本人を知っている一人として見ると、良くも悪くも、少し過大評価され過ぎている気もします。

FK – 一つのジャンルやシーンを生み出したオリジネイターとしては揺るぎない功績があると思いますが、亡くなったアーティストは時に過剰なほど神格化されてしまうのも事実ですね。

MP – しかし、彼が「God father」ならば、FKさんは「Father」くらいにはなれるんじゃないですかね?(笑)。もちろん、いくら彼の下でたくさんの時間を過ごしてきたとは言え「Nujabes」の名前に囚われるのは嫌かもしれないですが。

FK – うーん、そもそもNujabesと過ごした時間の中で学んだのは「ただ本当に音楽が好きで、自己の音楽愛や世界観を音に投影していく」ということに尽きるので、シーンの中での立ち位置までまだ考えが及ばないです。そもそも、まだまだ自分の作品が少なすぎますし(笑)。そういう意味でも「何か動かないといけない」と言うことで、まずは過去にリリースしたシングルのリマスターを出すことにしたんです。今はデジタルの時代なので、リリースすることにデメリットは無いですからね。それから、少し前にダブプレートの7inchを切った曲があるので、次はそれらをデジタルで出そうと思っています。インストものと、ラップを載せた曲の2タイトルです。

そして今後は、Context〜のようなストイックに作り込んだ作品というよりも、もう少しユルくてシンプルに自分の色が滲み出ているようなビートをリリースしていければと色々と進めているところです。とにかく今まではのんびりし過ぎてましたので…、仲間に尻を叩かれながら頑張っています(笑)。

MP – 今時ならば、それこそ「The Donuts」のような短い曲のインストアルバムでも良さそうですね。Instagramにアップしている曲なんかをまとめてアルバムにしてみたらどうでしょう?

FK – 周りからも「Instagramのああいうので良いから出せ」と言われているんですが(笑)、さすがにもう少し作り込みたいと思っています。今回のリマスター版や、次にリリースされるものが世間に出ればフィードバックが得られるので、トラック制作に弾みがついてくるんじゃないかとは思っているんですけどね。

MP – 自分自身が「Lo-fiアーティスト」としてカテゴライズされるとしたら抵抗はありますか?

FK – 抵抗というか、ある程度自分でコンセプチュアルにリリースできれば、あとは聴いてくださる皆さんに判断してもらえると思っています。ただ、そういったシーンに刺激を受けながらも、僕の射程はあくまで良い音楽に宿る「普遍的な魅力」を追及していくことにあります。音楽って表層は時代によって目紛しく変わっていきますが、「あっ、これ!」と思わせる、聴き手の心を撃ち抜く核心の部分って何百年間も変わっていないと思うんです。和声という概念よりももう少し大きな枠組みの「響き」という縦の軸と「小節」という横のタイムラインは普遍なわけですから、そのキャンバスの中で自分がどういう線や色を描けるかですよね。ただ、油断すると、どうしても手癖というか悪い意味で自分好みの音ばかりになってしまうのでそこからの脱却というのも自分に課せられた大きなテーマです。

Lo-fiシーンは特にそうですが、今の時代、滝のように沢山の音楽が降ってくるので「誰が作ったか」というのは昔と比べるとそこまで重要じゃないというか、純粋に「聴こえる音そのものがどうなのか」という価値観に変わっていると強く感じます。そういう面でも音楽の持つ「普遍的な魅力」となる部分には徹底的こだわりたいです。

MP – 昔のようにレコード屋で知らない曲やジャケットを見て買うといった、不規則な偶然の出会いは減っていますよね。

FK – 確かにサブスクリプションの世界だと、「ジャケ買い」という感覚が希薄になってしまいましたが、時々、アルゴリズムの紹介する「未知の曲」が凄く良いことがあるので、「運命の曲との出会い」は無くなっていないと思います。ただ、アルゴリズムも良し悪しで、好みに最適化され過ぎて聞く曲の幅が狭くなってしまったり、聞きたくない路線の曲をしつこくオススメされたり、といったことがあります(笑)。

総合的には便利で、助かることもあります。例えば、サブスクでリリースを知ってアナログレコードを買うこともあります。それが今の音楽環境のリアルなので、その中で良いと思えるものを楽しく発掘&発信していければと思っています。

「シーン」という面では、昔はインターネットも無く情報も少なかったので、「そのシーンの中にいないといけない」みたいなストレスが常にありましたが、今は少し俯瞰的に見られるようになりました。ただ、現在の「シーン」というものは、「時代」であり「その時代の人にとって何が面白いか」を映し出す鏡のようなものだと思っています。そこには強い説得力がありますので、Lo-fiについても、それがムーブメントとして人々の関心を集めているのであれば、僕が何か言えることはありませんし、自分とは違うと思うことがあれば音で表現したいと思っています。

MP – 今回のリマスター版の曲ですが、あのカリンバやピアノは自身で演奏しているんですか?

FK – あれは全てサンプリングです。当時は生演奏を取り込む機材が十分に揃っていませんでしたし、そもそもHip Hopという音楽は、元ネタの作者ですら想像もつかない形で曲の一部を切り取り、新しい音楽へと作り替えるといった手法が根底にあります。そうしたサンプリングの美学に拘りたかったということもあり、tribeからのリリースはサンプリングだけで構築した曲にしようと思っていました。

この曲を作った当時は、YAMAHAのA4000というサンプラーを使っていました。それまでの機材(Ensoniq EPS16+)では容量が少ないフロッピーディスクを何枚もロードしながら作業しないといけない環境でしたが、大容量のハードディスクに大量の音ネタをストックできるようになってから一気に自由度が高くなったのが楽しくて、A4000をフル活用して曲を作りました。内蔵されていたエフェクターもたくさん使いましたね。現在はAbleton Liveを使っていますが、A4000の頃よりも更にネタをストックできるので本当に便利です。それに、サンプリングしたファイルを片っ端から保存して横並びでストックできるので、いつでもすぐ聴くことができますし、まずは音ありきで作業できるのは良いですね。サンプルの出音を確認する作業から始められるので、「これって何のレコードからサンプリングしたんだっけ?」と、元ネタを忘れることも多々あります(笑)。でも、それが逆に良いというか、フラットに最適な場所に音を配置することができるんです。何のレコードからサンプリングしたかはっきりしていると、ついつい高くてレアなレコードからサンプリングしたネタを優先的に使いたくなってしまうので(笑)。

MP – Context〜の後半のビートは、MoonstarrのDustのような印象がありますが、その辺りの音は意識していましたか?

FK – 確かに少し意識していたかもしれません。Moonstarrの「Dust」の質感はもう少しローファイですが、Context〜に関しては当時よく聴いていたCauralとかPrefuse73的なインストのElectronica Hip Hopに影響されて、とにかく色んなサンプル音を詰め込んで構築したいと思っていました。

MP – Hydeout productionsからリリースされたNujabes「D.T.F.N.」B面収録の「Shades of Nostalgia」は、かなりPete Rock色の強い曲でしたよね。

FK – あれは、2000年の初め、自分のウェブサイトにデモをアップしていた曲をNujabesが聴いて、「あの曲いいね。特別なマジックがかかってるよね。」と言ってくれた曲です。tribeのマネージャーになってからリリースの話が持ち上がり、最終的に「D.T.F.N.」の12inch、B面に収録されることになりました。

Pete RockとDJ Premierは本当に特別な存在で、強い影響を受けただけでなく、彼らのビートからは多くのことを学びました。

その後、Nujabesからも「個人的には凄く好きだけど、Pete Rockの影響や呪縛から一旦離れてみたら?」と言われ、新しい雰囲気の曲に挑戦したいと思っていた矢先にA4000を手に入れ、出来あがったのがContext〜とLotus〜の2曲です。そして、Nujabesからは「tribeのコンセプトにもしっくりハマるし、スキル、オリジナルティも感じる。ちょっと出してみようよ。」と声をかけてもらい、リリースすることになりました。B面は絶対Lotus〜にしたいと思っていたところ、Nujabesがtribeに来た際に偶然Lotus〜をかけていて、「いいじゃん。誰の曲かな?と思ってたんだよね。」と良いリアクションがあったので、この2曲を1枚に収めることになりました。

MP – 以前、どなたかとカバーソングを作りたいと言っていましたが、あれはどんな話ですか?

FK – 僕がレコードをコレクションしていく過程で影響を受けた素晴らしいアーティストが多数いるのですが、その中でも特別な存在がStanley Cowellというジャズピアニストです。残念ながら昨年末に逝去してしまったのですが、彼の作品をいつかカバーしたいとずっと考えています。僕自身は楽器がほとんど演奏できないので、知人のピアニストに演奏をお願いし、自分のビートを織り込んだものを構築しようと思っています。これはじっくり時間をかけて煮詰めたいプロジェクトですね。もう一つはアメリカ西海岸で今も活動する日系人バンドの知られざる名曲のカバー。これは現在ヴォーカリストとして活躍されているStanley Cowellの娘「Sunny Cowell」をフィーチャーして作りたいと妄想している夢のプロジェクトです(笑)。でも、今の時代はインターネットを介してオファーすることも可能ですので、いつか実現できると思っています。音楽を通じて色々な素晴らしい人と繋がれることができれば、それほど幸せなことありません。今後、こうしたプロジェクトにも、どんどん挑戦していきたいです。

MP – そのカバーソングも含め、新しい名曲が生まれることを期待しています。

FK – こうしてインタビューしていただけるのはありがたいと思いますが、自分は本当に自己アピールが下手なので、今後は自分の曲を聴いてもらえるよう意欲的に活動・リリースも進めていきたいと思います。

PROFILE

Nujabes主宰のレーベル「Hydeout productions」の旗艦店「tribe」のマネージャーとして抜擢される。Nujabes「D.T.F.N」の12インチシングルでは、Side.Bに「Shades of Nostalgia」が収録される(Nujabes以外のオリジナル楽曲のリリースでは初アーティスト)。tribeが立ち上げた同名のレーベルからは、7inchシングルをリリース。その他リミックスワークや、Nujabesを偲ぶトリビュートアルバムにも参加。
現在はレジデントを務めるミュージックイベント「Rejoice」(不定期開催)をホームグラウンドとしながら、Jazzを始めとするディープかつ幅広い音楽への造詣の深さを活かし、都内各所のクラブやカフェ、ジャズバーなどでDJとしてプレイ。又、ビートメイカーとしても新たなリリースへ向けプロジェクトを準備中。