様々なローカルアーティストと共演・共作し、2023年6月にはビートメーカーであるShape Shifterをプロデューサーに迎えたドープなEP「Keep Sleepin」をリリースしたラッパーのVilianiに、地元であるオーストラリアでの音楽シーンや、自身の音楽スタイル、そして、「Keep Sleepin」について話をうかがった。
Mental Position – 今回はインタビューに参加していただき、ありがとうございます。SNSなどを見る限り、現在はオーストラリアで活動されているようですが、簡単に自己紹介をお願いします。
Viliani – インタビューの話をいただき、ありがとうございます!私の名前はVilianiで、発音は「ヴィリアーニー」。ヴィリアーニーは本名ですが、言葉遊び的に単語の「Villain(悪党)」の綴りを少し変えた名前です。今はオーストラリアのメルボルンが拠点。ラップのリリックを書いたり、Hip Hopの曲をプロデュースしていますが、メタルやグランジも聴いて育ちました。好きな音楽の幅は広いので、いろいろなジャンルの音楽を聴きますよ!聴こうと思って聴くというより、気持ちいい音楽ならなんでも聴く感じですね。
MP – MC / ラッパーとしてはいつから活動しているのでしょうか?現在聞くことができる一番古いアルバム「The Burial」のリリースが2020年のようなので、2018〜2019年あたりからラッパーとしての活動を始めたのですか?
Viliani – ラップは2009〜2010年頃に始めました。ファーストシングルの「At Ease」は2015年にリリースしましたが、それまでずっと友人や他のMC達と一緒にステージでパフォーマンスしていましたね。2020年にリリースしたアルバム「The Burial」の収録されている曲は、2013年頃からずっと制作していた曲なんです!!ようやくアルバムという形でリリースされましたが、これからはクリエイティブなことをするためにこんな長い時間を使わないと決めました!
MP – 全てのリリースを聞いてみた限り、いわゆるBoomBap的な世代~90年代のスタイルを踏襲しているように思いますが、どのような時代、アーティスト、曲に影響を受けましたか?
Viliani – ははは、その通りですね。ただ、トラディショナルなものは割と好きですが、曲を作る際にはできるだけ自分自身のスタイルを表現できるように努力しています。(90年代のアーティストだと)例えば、Jedi Mind TricksやVinnie Paz、Eminemなんかも聴きましたし、TupacやNasももちろん聴きましたが、ラップをするきっかけになったアーティスト達ではありません。どちらかと言えば、地元オーストラリアのMC達にとても影響を受けました。キャンベラからシドニー、アデレード、メルボルン、それからパースまで、アンダーグラウンドで活動する地元のグループやMC達は全てチェックしてきましたね。Hopice Crew、Bias B、SBX crew(特にMC Layla)、Raven、Sky’High、Brad Strut、Billy Bunks、Tornts、Len One…、全て自分がラップを始めた時に影響を受けたMCやグループです。だからオーストラリアのラッパーにはインスパイアされましたし、本当にラップをやりたいと思わせてくれたんですよ!特にMC Laylaのアルバム「Heretic」には、かなりやられましたね。聴いた瞬間に「これだ!」と思いました。90年代のBoomBapも聴いてきましたが、ラップとメタルが混ざった「Nu Metal」がずっと好きで、自分が思ってるよりもだいぶ影響を受けているかもしれません(笑)。
MP – 個人的にはあまり好きでは無いですが、Vilianiさんの作品では、イマドキのあまり韻を踏まないフロー重視のラップはしていません。一方で、あまり歌っぽくなりすぎないフローや、フックでのメロディーはすごくHip Hop的で好印象です。もちろん、しっかりパンチラインも織り込んだライミングも好きです。そうした自身のスタイルに最も影響したMCや、憧れのMCがいれば教えてください。
Viliani – MC Layla、Sky’High、Ed Scissortongue、Rhyme Asylumです。全ての曲やリリックは、何らかの形で、これらのアーティストを意識して作ってきたつもりです!
MP – これまでのリリースは、いずれもBoomBap的なオーセンティックな雰囲気のトラックがほとんどですが、参加しているトラックメーカーとはどのように知り合ったのでしょう?Shape Shifterとの最新EPももちろん好きですが、過去作では「The Burial」収録の「The Future Is Mine」などを手掛けているCiecmateの音も非常にドープで好きです。
Viliani – (嬉しい気持ちで)イエ〜イ、乾杯〜!こういうのがソーシャルメディアの良い面だと思います。SNSは色々なプロジェクトで私たちをつなげてくれましたし、Shape Shifterと一緒にEPを作ることになったのもそのおかげです。実際に彼とは会ったのは、その後のギグなんですけどね(笑)。
これまでのプロデューサー達は、ラップのスタイルが自分の作品にフィットするか聞き分ける鋭い感覚を持っています。Ciemateは「The Future Is Mine」を私のために作ってくれましたが、既に別のビートで作っていたリリックがあって、いい感じにこの曲に乗せることができました。
MP – 変わったところでは、Death Metal的なアーティスト「Echos In Eternity」、ロックバンドの「Good Will Remedy」の曲にも参加していますが、Hip Hop以外のジャンルのアーティストとはイベントなどで知り合ったのでしょうか?あるいは、元々のミュージシャン仲間でのつながりですか?
Viliani – あれは、普通のHip Hopと全く違う、すごくドープなコラボレーションでしたね。この二つの曲もSNSのおかげでコラボが実現したんです!彼らとはまだ会えていませんが、参加させてもらえたことに感謝していますし、いつか会いたいと思っています。
MP – オーストラリアのシーンについて教えてください。おそらくアンダーグラウンドやインディーズでは沢山のアーティストが活動しているかとは思いますが、シーンについての情報を耳にすることが少ないです(少なくとも日本では)。Vilianiさんが参加しているショーはインスタグラムなどで拝見しましたが、地元のHip Hopのショーやイベントなどは盛り上がっていますか?
Viliani – 地元には沢山のアーティストがいます。自分自身がアンダーグラウンドなシーンにいるのは分かっていますし、むしろ居心地が良いです。それに、メインストリームの音に無理やり合わせようとは思いません。
ここメルボルンだけでなく、オーストラリアの別の州でも常にライブをやっています。メルボルンはよくアートや音楽の街と言われるのですが、私もすごくそう感じます。この街にはHip Hopやグラフィティの強いコミュニティーが根付いていますが、全ての人がつながっているというより、この分野でお互いがコミュニティーを築いているという感じですね。
MP – 「GIRLS TO THE FRONT」のような女性が主役のイベントにも参加していますね。近頃はジェンダーの話をするとややシビアな雰囲気になるので難しいトピックですが、女性のラッパーとして、例えば、リリックやスタイルなど、意識していることがあれば教えてください?私はジェンダーに関係なく、Vilianiさんのスタイルはカッコ良いと思っていますが。
Viliani – 「GIRLS TO THE FRONT」は女性アーティストが活躍する場として、すごく良いイベントです。LGBTQIコミュニティーにも向けられています。
性別に関係無く、自分のスタイルは他のラッパーと比べると生々しいと思いますが、リリックは幅広いボキャブラリーを活かして複雑に、かつディープで雰囲気で書いています。ただ、聴いてみると実はそこまで複雑では無いんですけどね(笑)。
「Hip Hopの世界で女性ってどうなの?」みたいな質問をされる度に言っていますが、正直、性別は全く気になりません。女性であることが自分のライムやビート、リスペクトされることとは全く関係無いですから、やるべきことをやって、スキルを磨くだけです。
MP – このサイトのタイトルは「LO-FI STYLE」なので、ローファイミュージックについて質問します。サイトタイトルの「LO-FI」は、いわゆるLo-fi Hip Hopのような音楽だけでなく、BoomBapと言われるような90年代のスタイルを踏襲した音楽もターゲットとしています。現在の「Hip Hop」のメインストリームはどちらかというリッチなサウンドで、TrapやDrillと呼ばれるようなスタイル、あるいは、未だにオートチューンを使ったあまり旧来のラップ的ではないラップが主流ですが、他方、インターネットを中心に流行り出したローファイミュージックのおかげで、90年代Hip Hop的スタイル、イマドキの呼び方で言えばBoomBapも注目されるようになりました。こうしたローファイミュージックのシーンがVilianiさんの活動に影響を与えたことはありますか?
Viliani – PhilanthropeやDevaloopのようなLo-fi Hip Hopもよく聴いていました。最近はあまり聴いていませんが、その時々でどんな音楽も聴きます。以前はLo-fiビートにリリックを書いたりもしましたが、いつもとは違った雰囲気になりますね。おそらくメランコリックな感じの曲が多いので、リリックにもそういった雰囲気が出てくるのかもしれません。
TrapやDrillのような音楽は、エネルギーを感じるような重いベースのビートが好きです。ただ、どちらかというと、Lo-fiミュージックの心地よい要素の方が好きかもしれません。それぞれの音楽のムードやスタイル次第ですから、どちらも一緒に聴けますよ。
MP – Shape Shifterプロデュースの「Keep Sleepin」は非常にドープで、トラックとラップの組み合わせもすごく良い最高のEPだと思いました。それぞれの曲は、ミュージックビデオのように都会の喧騒や夜の雰囲気にマッチしていて、オーセンティックなスタイルながらも、昔のスタイルを意識しすぎない、とてもバランスの取れた曲にまとまっている印象です。このEPの聴きどころ、それから、Shape Shifterさんとの出会いや曲制作プロセスなど、なにかエピソードがあれば教えてください。
Viliani – ははは、イイ感じの感想、ありがとうございます🙏
「Keep Sleepin」は、現実社会や世界で起きていることについて普段自分が思っていることから、色々なトピックについて書いた作品です。それと、昔の自分や、周りにどう思われているかなんて気にせず、誰でも好きな生き方が見つかるまで安心して眠っていられる(生きられる)ということにも触れています。
私のリリックは、常に生々しく、そして、正直な気持ちで、絶対に何かを偽ったりしません。それは、Hip Hopが世の中の真実や自分の本当の姿について表現するアートフォームだと思っているからです。
Shape Shifterとの出会いについてですが、先ほど話したように初めはSNSで知り合い、その後、ギグで会うことになりました。彼は制作中も本当にクールで気のいい人だったし、また一緒に曲を作りたいと思っています!皆さんもビートが必要なら彼に相談してくださいね!
IG:Shapeshifter404
Q.有名、無名に関わらず、 今後、コラボしたいアーティストはいますか?
Viliani – Sky’High、MC Layla、Ed Scissortongueとは、ぜひ一緒に曲を作ってみたいです。
MP – 最後にこのサイトの読者や、ローファイミュージックのファンへメッセージがあれば、お願いします。
Viliani – LO-FI STYLEでインタビューを読んでくれた皆さん、ありがとうございます。皆さんがどんなことをやっていたとしても、自分の気持ちに正直に、常に自分自身のスタイルで挑戦してください。誰かの真似だけをする人になんかならないように💯🙏
PROFILE
オーストラリア、メルボルン出身のラッパー Viliani。タイトなラップスタイルと、シリアスなリリックで、これまでに様々なミュージシャンやプロデューサーと共に曲を制作している。2023年6月には同じオーストラリア出身のShape Shifterをプロデューサーに迎え、EP「Keep Sleepin」をリリース。